京都ライブラリアン・セッションのご案内 [終了しました]

個々がもつ知識やスキル・経験は,共有することによって,より深く広くなるのではないでしょうか。 会員からご応募いただいた発表を軸に,会場を交えた共有の場として,「京都ライブラリアン・セッション」を開催します。

日時:
2005年1月22日(土) 14:30-17:00 (受付 午後2時15分から)
場所:
京都市国際交流会館 1階第1会議室
主催:
大学図書館問題研究会京都支部
会費:
無料 (大学図書館問題研究会の会員でない方のご参加もお待ちしています。)
報告 (発表順不同)
「大学図書館のボロイングポリシー:貸借資料の複写可否」 吉野貴庸氏 (京都精華大学情報館)

図書館間の相互協力サービスに、現物貸借のサービスがある。 このサービスにより貸借された資料についは、著作権法31条より、依頼館では複写はできない、 という解釈が一般的になっている。しかしながら、 『図書館サービスと著作権』 (改訂版、日本図書館協会、1994) にもあるように、 他館より借り受けた資料も、複写可能であるとする見解も少数ながらあるようである。 例えば、「国立大学図書館協議会現物貸借申合せ」 (1989年6月29日採択、国立大学図書館協議会) の 「依頼館の責務」では、「依頼館と利用者は、受付館の設定する貸出条件に従う必要があること。 受付館が特に禁止していなければ、依頼館での複写は許される。ただし、著作権法上適法であること、 ならびに原資料にいかなる損傷も加えられることのないことが条件となる。その他、利用に当っては依頼館の利用上の規則によること。」と記されている。

そこで、今回、全国の大学図書館のHPより、各大学のボロイングポリシーを調査し、 現物貸借における資料の扱いについての現状を確認することにした。 各大学図書館のホームページについては、上田修一氏作成の 「日本の大学図書館,公共図書館とのリンク+OPAC」 を参考にした。 調査した686館中1館で、複写可としている大学が確認された。 また、資料の利用については、相手館の指示によるとしている大学が21大学、 複写不可としている大学が29大学、館内閲覧・利用としている大学が47大学確認された。 ここで、この館内閲覧・利用というのは、複写可としているのかどうかという点も問題となる。 館内利用に複写は含まれるのか。著作権法31条の一般的な解釈が含まれているのか。 「閲覧」という言葉も国語辞書的意味ではなく、図書館用語として歴史的に見ると「館内利用」を意味する。

「見たい!行きたい!海外図書館:どう準備し,実践するか」江上敏哲氏 (京都大学情報学研究科図書室)

海外の大学図書館や国立・公共図書館などを訪問し、どのようなサービス・マネジメントを行なっているか、 どのような施設・機器があるかについて、見聞した内容を紹介する、 といったようなことは、これまでにも数多くかつ繰り返し発表・報告されています。 ですが、実際に自分自身が海外図書館を訪問・見学することになったとしたら。 何を準備したらよいのか、どうやって手続き・交渉していけばよいのか、戸惑うのではないでしょうか。 各図書館の調査・見聞の結果については、雑誌記事やWeb上で多数読むことができます。 が、その訪問・見学そのものがどのように準備され、実施されたかについて、 先人が詳細に紹介してくれているような発表・報告はなかなか見当たらない、というのが現状です。

昨夏、京都大学教育研究振興財団からの助成 (海外短期派遣) を受け、 ヨーロッパの日本語・日本研究資料図書館5館 (イギリス・オランダ・アイルランド) を訪問し、 欧州日本資料専門家会議 (スペイン) に参加してきました。 今回のセッションでは、各図書館や会議そのものについての紹介を敢えて割愛し、 その訪問・見学のために行なった事前準備や、訪問中・訪問後などで実際に体験・反省したことなどをご報告したいと思います。

訪問の目的をどう設定したか。行き先の取捨選択のためにどういう事前調査を行なったか。 訪問先へのコンタクト・依頼の際の段取りや失敗、先方の反応。 スケジュール設定の経緯。どのような予習をして、どのように事前質問票の作成・送付したか。そして、帰国後はどのように取りまとめていったかなど。

準備・手続き・交渉といった周辺的なことを、自らの体験と反省をもとにテーマとしてとりあげ、 本当にこれでよかったのか、叩き台として検証していただければと思います。 そして今後、より多くの方が、よりスムーズにかつ実り多い海外訪問を実践していただける、その一助になれば幸いです。

「May I help you ?:プッシュ型のレファレンスサービス」福井京子氏 (京都大学教育学部図書室)

今 まさにインターネット時代です。図書館のレファレンスもご多分にもれず、 キーボードをたたけば欲しい情報がすぐ手に入ります。 雑誌の記事を探す場合も、冊子体の雑誌記事索引でこつこつと探したものですが、NDL-OPACやCD-ROMですぐにわかるようになりました。 そして機械操作の熟練度がレファレンスの善し悪しにつながることが,多くなってきたように思えるのです。それで本当にいいのでしょうか。 受験戦争に勝ち抜いてきた学生さんたちの中には効率の良さばかり考え、答えを早く要求してくる人もいます。 ネットなどの情報からいち早く簡単に答えを出し、それでいいと考えている学生さんには、 順序立てて学問に取り組む姿勢を学んでほしいと思い、まず、辞書の重要性をお話します。 そこから、重要なことを芋ずる式に探し出し、先人の研究を読みこなして、そして自分の考えをつくりあげていってほしいと話をします。

とくに教育学部という学部の特色を考え、人に関わる学問・研究をする人たちだけにでも、 ゆとりをもって研究をしてほしいと思っているのです。こんなお話をしいていますと、 こんな時代になんてことをとおしかりを受けそうですが、もちろん、利用者教育には、 インターネット情報活用は必要で、現一回生には、教育学部でのオリエンテーションと附属図書館での40-50分ほどの 教育学部のためのオリエンテーションをしっかりと受けてもらった成果は確実に実っています。 私がレファレンスで一番心がけていることは、「なんでも図書のことは福井さんに聞こう!いつもやさしく教えてくれるから」なのです。

「学部/学科図書館における電子図書館サービスの一例」進藤達郎氏 (京都大学工学研究科・工学部物理系図書室)

情報化の進展により、大学図書館における電子図書館サービスの重要性は高まっている。 電子図書館というと、MyLibraryのような図書館ポータルや貴重資料の電子化と公開などといった全学的な事業がまず想起されるが、 インターネットを通して図書館サービスを提供しているのはなにも大学図書館の中核たる中央館だけではなく、 ウェブサイトを持ち情報やサービスの提供を行っている学部・学科クラスの図書館も多数存在する。 しかしながら、それらの図書館が提供する情報やサービスの内容は様々であり、 種々の事情から断片的なサービスにとどまっているケースも多く見られる。 そのような状況下で学部・学科図書館が提供すべき電子図書館サービスとはいったい何か、ということを以下の事例を通して考えてみる。

私が所属する京都大学工学研究科等図書室及び物理系図書室では、ウェブサイトのリニューアルを計画している。 現状ではいずれの図書室サイトも認知度が低く公開の意義が薄いこと、 サイトの構造が若干分かりにくくユーザビリティの高いサイトとは言いがたいことなどが計画の発端だった。 これを単なるウェブサイトのデザイン変更ではなく、学部・学科クラスの図書館サービスを見直すきっかけとすることが目標である。 そのため、まずは電子図書館の機能やコンテンツについて整理し、 その中から、国内外の大学図書館の事例も参考にしつつ、 学内の他の図書館との役割分担や学部・学科に特有の事情を考慮して提供すべきサービスを取捨選択してみる。 可能ならばそのサービスの予算・人員・体制面からみた実現可能性や、 提供するに当たって考慮するべき技術的側面にも触れつつ、学部・学科図書館が提供する電子図書館サービスの一つの形を示してみたい。