研究発表について(8/31(土))
タイトル:
出版情勢から大学図書館の役割を考察する(2)


発表者:
磯本善男(北海道大学附属図書館)

要旨:
  日本の出版物の売上は1997年に初めて前年割れとなり、ここから現在に至るまで苦境が続いている。この年は消費税率が3%から5%に上がった年でもある。2019年10月には消費税率は10%に上がる予定であり、新聞を除く出版物には、有害図書の問題もあり軽減税率の適用は見送られた。1997年と同様、今回の増税が出版物の売上に影響を及ぼすのは必至である。この間、電子書籍という新しい媒体が登場し、2010年の電子書籍元年以降、売上は着実な伸びを見せているものの、出版界全体の不況を救うまでには至っていない。
  日本の出版界は、「再販制度」「取次」というシステムの上に成り立ってきた。再販制度によって出版物の販売価格は拘束され、取次によって自動的に出版物が書店に届く日本独自のシステムによって、出版物の安定的な流通が確保されてきたが、返品率が3割を超えるという問題も抱えていた。取次システムは1996年がピークであった雑誌の売上の減少とともに崩壊していくことになる。アマゾンや丸善ジュンク堂書店は、取次を介さない出版社との直接取引を拡大しており、直接取引の拡大はそのまま取次、再販制度の衰退につながる。長らく変革から遠ざかっていた日本の出版界は、今まさに過渡期にあると言える。
  図書・雑誌は依然として大学図書館の主要なコンテンツであり、出版界の情勢は学術情報流通にも大きな景況を与える。出版情勢について造詣を深めるのも大学図書館員の責務である。本研究の目的は、昨年に続き日本の出版情勢の現状を把握し、大学図書館職員が取り組むべき課題を洗い出すことである。

参考文献:
1) 出版ニュース.東京,出版ニュース社,1946-2019.(ISSN 0036-2003)旬刊.
2) 出版年鑑.東京,出版ニュース社,1946-2019.年刊.
3) 特集,出版の未来構想.世界.2019,vol.923,p.166-219.
4) ユリイカ2016年3月臨時増刊号 総特集=出版の未来-書店・取次・出版社のリアル-.東京,青土社,2016, 213p.(ISBN 9784791703050).
5) これからの本屋読本.東京,NHK出版,2018, 317p.(ISBN 9784140817414).
6) アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した.東京,光文社,2019,340p. (ISBN 9784334962272).




タイトル:
シェアードプリントの実施に向けた シミュレーションと論点整理


発表者:
村西明日香(名古屋大学附属図書館)

要旨:
  書架の狭隘化が恒常的な課題となっている大学図書館にとって、蔵書の共同保存・管理を目指すシェアードプリントは有効な解決策のひとつとして注目されているが、日本国内ではまだ実践例が少なく、さらなる検討が求められている。
  本発表では、東海北陸地区の国立12大学の所蔵データを用いて実施した分散型シェアードプリントのシミュレーション結果を紹介するとともに、シェアードプリントの実施に向けた論点整理を行う。

参考文献:
・国立大学図書案協会学術情報システム委員会. これからの学術情報システムに向けてII―アクションプラン検討のための試案に関するレポート―. 2019, 18p.
  https://www.janul.jp/sites/default/files/2019-07/sis_report_201906.pdf
・森石みどり. “北米におけるシェアード・プリント例WEST及び自動書庫調査”. 大学図書館研究. 2016, 103, p. 50-61.
  https://doi.org/10.20722/jcul.1422
・村西明日香. “これからの大学図書館における冊子体資料の保存と管理 : 北米の事例から”. 現代の図書館. 2014, 52(4), p. 195-203.
  http://hdl.handle.net/2237/21409