研究発表・事例報告について(9月13日(土)13:30~14:00)

Togura - 極めてシンプルな機関リポジトリ

発表者:

加川みどり氏(学術基盤整備研究グループ有志代表)

要旨:

 現在の機関リポジトリは、オープンアクセスや研究データへの対応など複雑な要件に応えるため、非常に多機能なアプリケーションとなっている。しかしこのため、アプリケーションの開発や維持、データ移行の複雑さをもたらしており、機関リポジトリの本来の目的である「研究成果への持続可能で永続的なアクセスの保証」に対するリスクとなっている状態である。
 日本において多くの機関が利用しているJAIRO Cloudのシステム移行時においては多くの労力を割いて対応せざるを得ず、また一時的にせよ「永続的なアクセス保証」の実現が難しい状況に陥る事例も散見された。各機関の研究成果のショーケースともなるため、工夫を凝らした機能を要求するあまり、本来の目的が脅かされるという本末転倒な事態にも陥りかねない。また、小規模機関ではリポジトリに対応する人的リソース不足も叫ばれている。
 このような状況を打破するべく、学術基盤研究グループでは有志により「持続可能な機関リポジトリ」を実現するための、最低限必要な機能とは何かを検討し、機関リポジトリ構築用アプリケーション “Togura”(とぐら、鳥座)を開発した。

“Togura” の特徴は次のとおりである。

  1. Python の動作するパソコンとWeb サーバーで構築可能
  2. 静的なHTML・XML ファイル・JSON ファイル・登録ファイルのみで構成されるため、メンテナンスが容易
  3. Visual Studio Code によるJPCOAR スキーマのメタデータ作成補助ツールを提供
  4. ファイルの保存にRO-Crate、メタデータのハーベスト対応にResourceSync を用いており、国際的な相互運用性を確保
  5. CiNii Research への収録やJaLC DOI の登録にも対応可能

 Togura はCC0 のフリーソフトウェアで、誰でも自由に動作可能。GitHub で公開中。
 https://github.com/nabeta/togura
 本プロジェクトは2025年5月12日~14日に開催されたCOAR Annual Conference 2025においてポスター発表を行った。
 https://jpcoar.repo.nii.ac.jp/records/2000593


NACSIS-CAT40年間における運用の変更および図書書誌データの「品質」への意識の変化について

発表者:

岡田智佳子氏(NPO法人大学図書館支援機構)

要旨:

 1985 年4 月に運用を開始したNACSIS-CATは、今年、40年の節目を迎えた。時期を同じく図書所蔵データ件数は1.5億件を超え、2025年度は、名実ともにメモリアルイヤーと呼ぶにふさわしい年となっている。
 オンライン共同分担目録方式を採るNACSIS-CATにおいて、安定かつ信頼性の高いデータベースを構築するためには、単にシステムを整備すればよいだけではなく、適切かつ綿密な運用ルールの策定が重要となる。実際、NACSIS-CATでは、大学図書館の環境変化や、目録に関する世界的動向等に対応するため、運用ルールの変更が行われてきた。そして、図書書誌データの「品質」は再定義され、目録担当者の「品質」への意識も、かつての「重複レコードは発見次第統合」との分かりやすいものから、現在は、「並立書誌の許容」という複雑かつ曖昧なものへと変化している。
 本発表では、NACSIS-CAT40年間を次の4期にわけ、運用の変更と図書書誌データに関する「品質」への意識の変化について公開資料等を基に概観し、NACSIS-CATの学術情報基盤における役割および品質管理の今後の見通しについて考えるものとする。

  1. NACSIS-CAT 運用開始から安定運用期(1985~2003)
    「書誌共有型」か「書誌並列型」かの検討の上で、「書誌共有型」が採用され、オンライン共同分担目録方式にて開始。
  2. 書誌ユーティリティ課題検討プロジェクト(2004~2013)
    サービス開始後20年が経過し、書誌ユーティリティとしてNACSIS-CATを捉えた上で、その品質劣化と制度疲労に伴う問題を解決するためのプロジェクト。その後の「次世代目録ワーキンググループ」「次世代コンテンツ基盤・目録関連ワーキンググループ」もここに含む。
  3. CAT2020(2014~2020)
    2020 年をターゲットに定め、「それ以降の目録所在情報システムはどうあるべきか」についての検討と、それに伴う運用変更。第8回連携・協力推進会議での「平成32年(2020年)には現在のような枠組みでの目録システムは終了している」発言を始まりとした。
  4. 現在(2021~現在)
    NACSIS-CAT のOCLC CBS へのシステム移行(2022)、NCR2018 対応(2024)を経た現在について。