お薦めの1冊 場合によっては2冊、3冊♪

第1回目は、ベテラン会員T.Kさんです。手渡し可能な方には貸して下さるそうです★

1.無縁社会:“無縁死”三万二千人の衝撃
    NHK「無縁社会プロジェクト」取材班編著 文芸春秋 2010.10

 2010年1月に放送されて大反響を呼び、菊池寛賞を受賞したNHKスペシャルの書籍化。
 本書は、無縁死(ひとり孤独に亡くなり引き取り手もない死)となった人々を取り上げ、彼らがどのようにして孤独の内に亡くなったのか、またはその情況になったのか取材した内容を単行本化した。 
「行旅死亡人」という言葉は警察でも自治体でも身元がつかめなかった無縁死のことである。無くなった人々の情報は自治体が火葬、埋葬した上で官報で公告する。取材班は「行旅死亡人」と告知された男の意外な人生を追い、また家族に引き取り拒否された遺体の行方を追う。
家族が判明しても引き取りを拒否する家族。生涯未婚の急増、定年後におひとりさまになる企業戦士。孤独死の現場を整理する「特殊清掃業者」。若い世代に広がる「無縁死」の恐怖など。
無縁死の周辺で起きている衝撃の事実を丹念に取材して、家族や地域の絆が崩壊しつつある現代社会へ警鐘を鳴らしている。無縁社会の闇はまさに「絆」「つながり」を忘れ、「役立たずは組織を社会を去れ」という風潮が蔓延して広がったと思う。
震災後「家族との絆」「社会とのつながり」に気ずかされた人も多いのではないだろうか?
本書は「誰にも迷惑をかけたくない」とひとりで生きている人たちに「迷惑なんかじゃない、頼って、頼られて、それでいいじゃないか」としめくくっている。

2.人質の朗読会 小川洋子 中央公論社 2011.2

 地球の裏側のある異国の村で、日本人観光客ら八人が乗ったバスが反政府ゲリラに襲撃され、そのまま拉致されてしまう。数ヶ月間の膠着状態が続いた事件は、人々の関心も薄れ始めたころ、犯人がしかけたダイナマイトの爆発によって人質全員が死亡してしまうことで幕を閉じるが、二年後、思わぬ形で人々に注目されることになる。現地の特殊部隊によって小屋にしかけられていた盗聴器に、人質達の朗読の声が残されていたのだ。
8人の人質たちがお互いに語り合う「自分の日常に起こったエピソード」8編プラス1編の話には、本当にあってもおかしくない話もあれば、「ありえない体験」もある。
 にもかかわらず、彼らの物語は、みんな魅力的で、力強く希望に満ちている。そして、全員死亡したという前提があるせいか少しせつない。
なんでもない日常が本当は一番輝いている、毎日を静かに、丁寧に、ゆっくり生きていこう。
そんな風に思わせる小川洋子らしい不思議な温かみのある1冊である。

おもな内容は
1.風変わりな隣人に台所を貸すことになった少年時代のある一日を描いた「コンソメスープ名人」
2.少年時代に出会った鉄工所の作業員との思い出を語る「杖」
3.菓子工場に勤める女性と大家の老婆との不思議な交流物語「やまびこビスケット」
4.死者を弔う儀式のような忘れ得ぬ光景の「槍投げの青年」など